読書備忘録ーロマンチックな回覧板をまわす

これまでに読んだ本の感想をこっそりと書いていく予定 ロマンス小説多めでかなり偏りと多少のネタバレがあります

「愛を知った侯爵」シェリー・トマス

 前回の「あなたのそばで見る夢は」が生涯でただ一度の恋を書いているとするならば、この本に書かれている二人の恋愛は、“自分の自尊心を賭けた恋愛(戦い)”という表現がピッタリでしょう。このカップルはお互いとも非常に賢く抜け目ない上に、プライドも物凄く高いのです。しかもこの戦いに勝てば自分の欲しいものが手に入るのかと言えば、そういうわけではないのが恋愛の不条理でもあります。

愛を知った侯爵 (ベルベット文庫)

愛を知った侯爵 (ベルベット文庫)

 

 あらすじ

ヴィクトリア朝イングランド。レンワース侯爵は、ロンドン社交界で“理想の紳士”と称されるも、愛を信じたことはなかった。一方、貧しいルイーザは姉妹を養うために条件のよい結婚を望み、念願の社交界デビューを果たす。侯爵はルイーザに強く惹かれるが、結婚する気はない。二人のゲームのような駆け引きは予想外の展開に!米ロマンス書評サイトなどで2013年の「ベスト・ロマンス」に選ばれた、圧倒的高評価の超話題作。

 

レンワース侯爵とルイーザは、エロティックな欲望とそれぞれのプライドを賭けた駆け引きに火花を散らします。その戦いにおいては辛くもルイーザが勝利を収め、2人は結婚するのです。しかし本番はこれから、夫婦となった2人は「愛するとは何か?」という永遠の問いを賭けて、ビリビリするような神経戦を繰り広げていきます。

男女が恋に落ち、両思いとなって結ばれる。「そして2人は幸せに暮らしました」だけではない玉虫色の部分をたっぷりと楽しませてもらったので、作者のシェリー・トマスという女性は、たいへんクレバ-で多面性のある人物ではないかと感じました。

最後「愛」に関しての戦いに勝利を収めたのは、レンワース侯爵でしょうか?それともルイーザ?答えはこの本を最後まで読んだ人だけが知る極上のご褒美なのかもしれません。

「あなたのそばで見る夢は」ロレイン・ヒース

これは一生に一度の恋貫いた2人の話でもあり、私がハーレクインというものに“はまる”きっかけとなった作品でもあります。貴族も舞踏会も豪華な宝石も何ひとつ出てきませんし、登場人物で重要なのは4人だけです。読者は主役カップルがひと月以上もの間、2人きりでテキサスの荒野を旅をするのを見守るかたちになります。

ハーレクインでは、よく「ん???」みたいなタイトルがつけられていますが、(「大富豪のナントカ」「侯爵がナントカ」)この「あなたのそばで見る夢は」というタイトルはこの作品にピッタリで、かつ作品のテーマを象徴していると言えるでしょう。

あなたのそばで見る夢は (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション ヒ 1-2)

あなたのそばで見る夢は (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション ヒ 1-2)

 

 あらすじ

19世紀後半のテキサス。手紙のやりとりだけで結婚を決めたまだ見ぬ婚約者に会うべく、ひとりジョージアからテキサスにやってきたアメリア。そんな彼女を駅で出迎えたのは、足を骨折した兄の代わりにやってきた、婚約者の弟ヒューストンだった。
婚約者の待つ家へと旅するアメリアはその道中、戦争で顔に大きな傷を負い、寡黙だが心優しいヒューストンに惹かれていき……。
心に深い傷を負った男女の愛を、RITA賞作家が丁寧に描く感動のヒストリカルロマンス !

 

私としては特に、ヒロイン・アメリアのしたたかな強さに惹かれました。一年間文通したとはいえ、会ったこともないない男性と結婚することを決意して遠いテキサスへやってくる女性。孤独を抱えるヒューストンはそんな彼女に一目ぼれしますが(可愛くてけなげだからね)、しかしアメリアは簡単にヒューストンを好きにはなりません。長い旅の間に少しずつ彼の細やかな感性を知って次第に愛するようになるのです。

でも2人の心が通じ合った後、へタレなヒューストンは2人の未来のために行動を起こすことができません。ハーレクインだけにハッピーエンドと知りつつも、腹の決まらないヒューストンに対して、アメリアは静かに別の男性との結婚を受け入れようとします。恋愛よりもこの先に続く人生を前を向いて生きることを優先するヒロインが物語の真ん中にいるからこそ、この話がありがちな甘ったるい恋物語に収まらない輝きを放てるのではないかと思いましたね。

タイトルのあなたのそばで見る夢とは、文字どおりお互いが寄り添い合いながら、2人で生きていくことを指しているのです。

「素晴らしきソフィー」ジョージェット・ヘイヤー

 この作品はジョージェット・ヘイヤーの代表作とも言われていますが、当然前作の「フレデリカの初恋」同様にラブシーンと呼べるほどの甘い場面はありません。最後から4ページになってやっと主人公たちのカップルが両思いを告白し結婚の申し込みにたどり着いています。そして最後のページの4行で、「荒々しいキス」と「激しい抱擁」を交わして終わりという実にヘイヤーらしい話でした。

この説明では面白くなさそうに思えてしまうかもしれませんが、実のところ本のページをめくる手が止まらないのです!多くの登場人物が入り乱れる話なのですが、全ての人物がきちんと書き分けられているので、話がごちゃごちゃしません。

ヒロイン・ソフィーは「素晴らしき大ソフィー」というあだ名で呼ばれる、物怖じしない行動的かつ実務的で朗らかな女性で、身長は175センチ、絵に描いたような美人ではないけれど、最新流行のファッションを粋に着こなすお洒落さんです。ユーモアセンスたっぷりな彼女の特技は、乗馬と射撃と、それからなんとウソ泣き!策士ソフィーがしれっとした顔で引き起こす騒動が、もう面白いったらないのです。

素晴らしきソフィー (MIRA文庫)

素晴らしきソフィー (MIRA文庫)

 

 あらすじ

19世紀のロンドン。適齢期を迎え伯母の家に預けられたソフィーは、当のリブンホール家が抱える数々の問題にすぐ気づいた。賭事三昧の伯父、詩人に恋する次女、憂い顔の次男も心配だが、実質的な家長である長男チャールズの専制君主ぶりは目に余る。家族中が彼を恐れているうえ、婚約者は究極のうるさ型で、結婚前から何かと口を出す彼女にはチャールズ自身も辟易しているらしい。このままではみんなが不幸になるわ―持ち前の機転で驚くべき救済計画を立て始めたソフィー。そんな彼女を待ち受ける、思いがけない素敵な結末とは?伝説の大作家ヘイヤーの英国摂政期ロマンス。

 

 

普段私はハーレクインをあくまで楽しい娯楽と捉えていますから、どんなに本の内容が面白くても登場人物に肩入れしたりはしません。正直に書くと、作中に出てくる人物はしょせん、作家の頭の中の架空の存在でしかないからでしょうね。でもソフィーに関してだけは、「友達になってみたい」と思いました。それくらいヘイヤーの作り出したヒロインは、聡明でお茶目な、はじけるような魅力を持つ人物として書かれています。

そして今回も前作同様、非常に美人なソフィーのいとこセシリアは、頭の回るタイプの女性として書かれてはいませんでした*1。ヘイヤーという人はもしかしたら女性の美貌というものに、あまり魅力を感じないタイプだったのかもしれません。

 

 

*1:フレデリカの初恋」では美人の妹に関して「信じられないほど美しいけれど、おつむが弱い」と何回も強調して書いてある

「フレデリカの初恋」ジョージェット・ヘイヤー

作者のジョージェット・ヘイヤーは、ロマンス小説愛好家の中でも好みが別れるタイプの作家かもしれません。なぜなら彼女の書く話は、官能シーンどころかラブシーンすらないからです。ヘイヤーは1974年とかなり昔に亡くなっている人なので、作中カップルの愛情表現のマックスは「手を取り合う」「見つめ合う」です。つまりジョージェット・ヘイヤーの作品は現代人の作家が書いたロマンス小説のように、官能的なシーンが全く期待できないと言えます。

実は作家によるラブシーンの書き方の違いを比べるのが私の密かな楽しみでもあるのですが(人によってかなり違っている部分があるのが興味深い)、ジョージェット・ヘイヤーに関してはその楽しみが1ミリも期待できません。でも話が好きなので読みますけどね。

フレデリカの初恋 (MIRA文庫)

フレデリカの初恋 (MIRA文庫)

 

 あらすじ

高貴な血筋と富、そして麗しい顔立ちを生まれ持ったアルヴァストーク侯爵は尊大で皮肉屋なことで知られている。最近も強欲な姉に、冴えない姪を社交界に披露する舞踏会を開くようにせがまれ、断ったところだ。何もかもに退屈していたとき、遠縁の“親戚”を名乗る客が訪れた。その若い女性――質素な身なりだが洗練された立ち居振る舞いのフレデリカは、美貌の妹の社交界デビューに力を貸してほしい、と勇敢にも頼んできた。侯爵は、その信じられないほど美しい妹を見るや助けを申し出た。思い浮かんだ妙案にほくそえみながら。

 

 

ロマンス小説によく出てくる高貴な血筋と富、そして麗しい顔立ちを生まれ持ったヒーローですが、こういうタイプはかなりの確率で尊大で皮肉屋・何もかもに退屈しています。いつも思うのですが、「尊大な貴族=退屈している」というきまりでもあるんでしょうか?

でも彼はそこで美人と一瞬で恋に落ちずに(割と多くのヒーローが、美人もしくはたいへん魅力的なヒロインと一瞬で恋に落ちる)しっかりものの姉の方と心を通わせていきます。ジョージェット・ヘイヤーの本に出てくるカップルは、お互い最初はせいぜい「感じがよい」程度の好意しか抱いていないのですが、最後まで読むと綺麗にまとまります。それから美人の妹に関しては「信じられないほど美しいけれど、おつむが弱い」と何回も強調して書いてあるのが笑えました。

平熱より少々高めかなーくらいの温度から始まった2人の関係がじわじわと盛り上がっていきますが、途中に誤解があってそれがスパイスになり、そのままクライマックスになだれ込むというようなありがちな展開も起こりません。ちょっと不思議な味わいのある作品です。もしかしたらジョージェット・ヘイヤーの書く恋愛は、ハーレクインとして分類するべきではないのかもしれませんね。

ヘイヤーは、1800年以前の時代小説をできる限り正確に書くために、1,000件以上の歴史参考書を所有していたそうです。そうした資料をまとめたノートは、美、色、衣装、帽子、家事、価格、店などに分類付けて整理されていたとのことです。ふと、この本を翻訳した人は、かなりの知識を求められて大変だったろうなぁと感じました。

 

「愛は永遠に」ウェディング・ストーリー2015(「放蕩侯爵と白い真珠」キャロル・モーテイマーその他)

 4 人の作家による短編集です。「放蕩侯爵と白い真珠」キャロル・モーテイマー、「ウェルボーン館の奇跡」ダイアン・ガストン、「シークの愛の奴隷」マーガリート・ケイ、「悩める侯爵」エリザベス・ロールズ

いつも思うのですが、ハーレクインには、「放蕩ナントカ」が多すぎる!ヒーローが放蕩侯爵、放蕩伯爵、放蕩者とやたらに放蕩ばっかりしている印象ですが、実際に読むと割と簡単にヒロインにめろめろになったりするので、ちょっと個人的には納得がいかないケースが多いです。ここに出てくる放蕩伯爵はなんと、10年間ヒロインに一途な気持ちを持っているという設定でした。これでは全く放蕩侯爵でも何でもないため、こういうのを読むとつい「看板(タイトル)に偽りあり」では?と思ってしまいますね。

ウエディング・ストーリー2015 愛は永遠に

ウエディング・ストーリー2015 愛は永遠に

 
内容紹介
①「放蕩伯爵と白い真珠」1年前に亡くなった夫の喪が明け、公爵未亡人のソフィアは社交界に復帰した。自宅で開いた舞踏会に現れたのは、奔放な伯爵として悪名高いダンテ! 
②「ウェルボーン館の奇跡」子爵のジェラルドは重い気分でウェルボーン館にやってきた。不慮の死を遂げた母親の遺言で、館に住む見知らぬ3人きょうだいの後見人を務めるはめになったのだ。
③「シークの愛の奴隷」アラビアで父親の仕事を手伝うフランス人のジュリエット。乗っていた船が嵐で沈み、彼女はラシュアール王国の浜辺に流れ着いた。当地の部族に捕らえられ連行されたのは、光り輝く壮麗な宮殿。彼女は王国のプリンス、カリドへの贈り物にされてしまったのだ!
④「悩める公爵」“国王が決めた花嫁に難色を示す皇太子を説得せよ”法外な命令に、公爵のケスターは自邸の図書室でつぶやいた。「愛に基づかない、便宜上の結婚なんて最悪だ」
 
 
短編集に関しては、これまで読んだことのない作家をお試し感覚で、好みの作家に当たればラッキーという気持ちで読みます。4編とも想像を超えるほどうっとりさせてはもらえませんですが、まぁそれなりと楽しめたというところでしょうか。
ちょっとひとこと。ハーレクインに出てくるシークとは、ざっくり言えば「アラブなどを代表する砂漠の国の高貴な大富豪」だと定義すれば、多分大丈夫。私はシークものに対してあまり食指が動かないので、このジャンルに関してかなりぼんやりとしか理解していない気もしますが、そこはたいした問題ではありません。内容ですが愛の奴隷っていうか、“光り輝く壮麗な宮”という設定はあんまり活かされておらず、ジュリエットとシークがなんか2人で盛り上がってお風呂に入りながらエッチなことをしているという話でした。ハーレクインにはいろいろジャンルがあるので、この辺に関してはシーク好きの愛好家に任せるつもりです。
実は最後の「悩める公爵」が読みたくてこの本を手に取ったのですが、ハーレクインというより新婚の公爵夫妻が痴話げんかをしている話でした。可愛い話なので、深く考えずに良しとしておきます。
 
 
 
 
 

 

「夢見るキスのむこうに」リンゼイ・サンズ

 この作品はリンゼイ・サンズのデビュー作だそうです。そのせいか、文章がちょっと硬いかな?という部分があったりしますが、当然彼女の持ち味であるエロ・ハプニング(私の勝手なネーミング)がいくつか散りばめられています。ちなみに公爵夫人エマと騎士アマリの初めての床入りは、様々な事情を抱えつつ扉一枚で衆人環視のもとに素早く行われていました。

夢見るキスのむこうに (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション(ロマンス・コレクション))

夢見るキスのむこうに (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション(ロマンス・コレクション))

 

 あらすじ

ハートうっとり、世界が恋するとびきりキュートなヒストリカル・ラブ!! 
待望のシリーズ第一作! 
純粋無垢(?)すぎる新妻が、武骨な騎士を夫に迎えたら……

 

 

リンゼイのファンとしては押さえておこうかなという一冊ですが、とってもオススメかというと微妙。正直ヒーローの騎士アマリの魅力がイマイチ伝わりづらいというか、人物造型が浅いかなーと感じました。ヒロイン・エマに関しても、リンゼイがこう書きたい!みたいなヒロイン像が先行しすぎてエピソードの羅列というか、エマという人物が立ち上がってこないかなぁ。読者としては、魅力的な天然ヒロインを書くのってけっこう難しいのね、と思いました。

でもこのシリーズ二作目の「めくるめくキスにおぼれて」は面白かったので、リンゼイの作家としての伸びしろに関しては、かなり感心したかな。

そもそもハーレクインは美男美女がひと目で恋に落ちる的な、「コレはないわー」という展開が話の基本として存在しています。要はベッタベタの恋物語を、作家の腕一つで最後ハッピーエンドにもっていくわけです。一人のハーレクイン愛好家としては、少々のあたりはずれに関して文句を言わずに、暖かく見守る姿勢を取り続けていこうと思っています。

「約束のキスを花嫁に」リンゼイ・サンズ

この話はスコットランド領主の花婿ロスがヒロイン・アナベルに一目ぼれをしたことが話が展開するきっかけになっています。しかし私がこの件に関してはっきりさせておきたいことは、ロスが間違いなくおっぱい星人だということなのです!彼がアナベルの可愛らしさに一発でひきつけられたのは確かですが、同時にアナベルが“めりはりのある体つき”をしていたことを素早く見抜いたことは見過ごせませんね!

約束のキスを花嫁に (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション(ロマンス・コレクション))

約束のキスを花嫁に (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション(ロマンス・コレクション))

 

 あらすじ

修道女見習いのドジっ嬢が突然、姉の代役でスコットランド領主のお嫁さんに――!? 

修道院生活が長く、妻や女主人としての心得を知らないアナベルは不安を抱くも、ロスは 一目で彼女を気に入って結婚することに。共に暮らすうち、心やさしいロスに惹かれるアナベルだったが、不審な影が彼女に近づいて…… 

 

 

あらすじではドジっ嬢という紹介をされていますが、それでまとめるのはざっくりし過ぎな説明なんじゃないかと。実はアナベルは、「ある事情」で何度も殺されかかるのです。だから物語の中盤からは、話がミステリー仕立てになっていきます。ただし前半はロスがアナベルにむらむらしてはちょっかいをかけるという、エロコミックみたいな展開が続きます(何かというとドレスが破れる出来事が起こり、アナベルのおっぱいがドレスから飛び出してしまう)。もちろんそれだけではなく、嫁ぎ先のスコットランドアナベルが領主の妻として奮闘する様子もなかなか面白いですね。この本で「領主の妻の仕事」というものがあるのを、初めて知りました。

領主の妻は城の女主人として采配をふるったり、騎士見習いを教育したりする仕事があるそうです。女主人は、騎士見習いに楽器や読み書きを教えて教育するらしい。責任も重大ですし、けっこう大変そう。

まぁロスはユーモアを解し妻を大事にする人物なので、おっぱい星人といえども納得することにしました。でも修道院生活が長いアナベルが、教会は水曜日と金曜日と日曜日(多い!)に夫婦の営みを禁止していると営みを断ることに対して、水曜日でもベッドでなければ大丈夫とか(でも場所はとか穀物小屋!)水曜日だったけれどもう夜中だから木曜日になったので大丈夫とかいう形でユーモアを発揮するのはいかがなものかと思いました。