読書備忘録ーロマンチックな回覧板をまわす

これまでに読んだ本の感想をこっそりと書いていく予定 ロマンス小説多めでかなり偏りと多少のネタバレがあります

「フレデリカの初恋」ジョージェット・ヘイヤー

作者のジョージェット・ヘイヤーは、ロマンス小説愛好家の中でも好みが別れるタイプの作家かもしれません。なぜなら彼女の書く話は、官能シーンどころかラブシーンすらないからです。ヘイヤーは1974年とかなり昔に亡くなっている人なので、作中カップルの愛情表現のマックスは「手を取り合う」「見つめ合う」です。つまりジョージェット・ヘイヤーの作品は現代人の作家が書いたロマンス小説のように、官能的なシーンが全く期待できないと言えます。

実は作家によるラブシーンの書き方の違いを比べるのが私の密かな楽しみでもあるのですが(人によってかなり違っている部分があるのが興味深い)、ジョージェット・ヘイヤーに関してはその楽しみが1ミリも期待できません。でも話が好きなので読みますけどね。

フレデリカの初恋 (MIRA文庫)

フレデリカの初恋 (MIRA文庫)

 

 あらすじ

高貴な血筋と富、そして麗しい顔立ちを生まれ持ったアルヴァストーク侯爵は尊大で皮肉屋なことで知られている。最近も強欲な姉に、冴えない姪を社交界に披露する舞踏会を開くようにせがまれ、断ったところだ。何もかもに退屈していたとき、遠縁の“親戚”を名乗る客が訪れた。その若い女性――質素な身なりだが洗練された立ち居振る舞いのフレデリカは、美貌の妹の社交界デビューに力を貸してほしい、と勇敢にも頼んできた。侯爵は、その信じられないほど美しい妹を見るや助けを申し出た。思い浮かんだ妙案にほくそえみながら。

 

 

ロマンス小説によく出てくる高貴な血筋と富、そして麗しい顔立ちを生まれ持ったヒーローですが、こういうタイプはかなりの確率で尊大で皮肉屋・何もかもに退屈しています。いつも思うのですが、「尊大な貴族=退屈している」というきまりでもあるんでしょうか?

でも彼はそこで美人と一瞬で恋に落ちずに(割と多くのヒーローが、美人もしくはたいへん魅力的なヒロインと一瞬で恋に落ちる)しっかりものの姉の方と心を通わせていきます。ジョージェット・ヘイヤーの本に出てくるカップルは、お互い最初はせいぜい「感じがよい」程度の好意しか抱いていないのですが、最後まで読むと綺麗にまとまります。それから美人の妹に関しては「信じられないほど美しいけれど、おつむが弱い」と何回も強調して書いてあるのが笑えました。

平熱より少々高めかなーくらいの温度から始まった2人の関係がじわじわと盛り上がっていきますが、途中に誤解があってそれがスパイスになり、そのままクライマックスになだれ込むというようなありがちな展開も起こりません。ちょっと不思議な味わいのある作品です。もしかしたらジョージェット・ヘイヤーの書く恋愛は、ハーレクインとして分類するべきではないのかもしれませんね。

ヘイヤーは、1800年以前の時代小説をできる限り正確に書くために、1,000件以上の歴史参考書を所有していたそうです。そうした資料をまとめたノートは、美、色、衣装、帽子、家事、価格、店などに分類付けて整理されていたとのことです。ふと、この本を翻訳した人は、かなりの知識を求められて大変だったろうなぁと感じました。