読書備忘録ーロマンチックな回覧板をまわす

これまでに読んだ本の感想をこっそりと書いていく予定 ロマンス小説多めでかなり偏りと多少のネタバレがあります

「誘惑の晩餐」シェリー・トマス

 恋は人の運命を変えることができるのだろうか?なんてことを本気で思うには、少々年を重ねすぎたと言えますが、シェリー・トマスが持つ筆の力に、ふとそんな戯言をつぶやいてしまいました。

この本はシンデレラ・ストーリーと紹介されてはいるものの、主役のシンデレラ・ヴェラントは、いわば大人のシンデレラですね。しかしこの大人という言葉が含む意味合いの複雑さといったら...。彼女の書くロマンスは、甘いだけではありません。「愛を知った侯爵」のヒロイン・ルイーザといい、「待ちわびた愛」のヒロイン・ミリーといい、聡明で自分の欲しいものに対して“策をめぐらす”タイプの腹黒さを持っています。もちろんこの話の中にも“黒いヒロイン”が存在しているのですが、それがなんとメインではなくサブストーリーに出てくる女性なのです。これは非常に新鮮!

しかも私のハーレクイン歴において、メインカップル及びサブカップルに、処女も童貞も一人もいない、その上それが障害にすらならないという話を初めて読んだかもしれない。こうした設定を受け入れられないロマンス小説愛好家も、当然いるでしょうね。

誘惑の晩餐 (ソフトバンク文庫NV)

誘惑の晩餐 (ソフトバンク文庫NV)

 

 あらすじ

夢のような料理を生みだし、誰をも魅了する女性料理人のヴェラント。才能とともに、彼女は数々のスキャンダルも身にまとっていた。長年の愛人関係を噂される雇い主が急死し、彼女はその弟で辣腕政治家のスチュワートのもとで働くことになった。だが彼は、かつてヴェラントが愛し、出世の妨げになるからと身をひいた男性だった。運命の再会に、ヴェラントは心を激しく揺さぶられるが……話題の作家が贈る、謎と官能に彩られたシンデレラ・ストーリー。

 

シェリー・トマスが好む、過去と現在を言ったり来たりする話の構成が良くできているのかいないのか?実のところ私には上手く判断がついていません。でも彼女が書く生身の人間が持っている欲望、それを意志の力で抑制しようとする時に理性が立てるキリキリという音が聞こえてくるような描写がたまらないと感じます。特にヒロイン側が自分の肉体的な欲望をあらわにする場面の切迫感は、私を惹きつけてやみません。

つい2日前にバレンタインデイが終わったばかりですが、彼女の紡ぐ物語はもう若くない大人が大本命に送る、高級チョコのような味わいを秘めているようだと感じました。

サブストーリーのヒロイン・リジーは、訳者によるあとがきで外見を「フランス人形のような」とほめられていますが、性格に関しては「計算高い」「ちゃっかりした」などと解説されています(訳者はリジーが嫌い?)。しかし私としては、すぐ男性と寝てしまってはトラブルになるメインヒロイン・ヴェラントよりも、したたかな賢さとほとばしる情熱を併せ持つリジーの方が好きかもしれないと思いましたね。

シェリー・トマスは、ロマンチックのその先を書くことができる作家なのかもしれません。