読書備忘録ーロマンチックな回覧板をまわす

これまでに読んだ本の感想をこっそりと書いていく予定 ロマンス小説多めでかなり偏りと多少のネタバレがあります

「浜辺に舞い降りた貴婦人と」メアリ・バログ

 これはメアリ・バログの新シリーズ、サバイバーズ・クラブの第1作目です。メアリ・バログは大人の男女の非常に細やかで深みのある心情を描くことができる、優れた作家だと言えるでしょう。しかし彼女の作品をロマンス小説と言い切ってしまうにはあまりに複雑で成熟した話を書くため、物語に楽しさを求めるタイプの読者には受け付けられない場合が想像できるのです。なぜならメアリ・バログという作家は、物語の中に貴族や平民という階級による生活の違いをしっかりと組み込んで、それぞれが生きる世界の違いをごまかさずに描写する作家なのです。もちろんそのことは物語により一層の深みを与えているのですが、同時に愛だけでは越えられない一線というものを読者がはっきり意識せざるを得なくなることも事実でしょうね。

浜辺に舞い降りた貴婦人と (ライムブックス)

浜辺に舞い降りた貴婦人と (ライムブックス)

 

 あらすじ

初春のある日、トレンサム卿ヒューゴ・イームズコーンウォールの海岸近くにあるスタンブルック公爵の屋敷での時間を楽しんでいた。
朝食後に海岸へ散歩に出かけたヒューゴは、岩場で転倒して動けずにいた美しい貴婦人グウェンドレンを助ける。彼女は友人宅に滞在していたのだが、怪我が治るまで動かしてはならないという医者の指示により、運び込まれたスタンブルック邸に留まることになった。
軍隊では貴族と平民とのあいだに時として諍いがあったため、新興富裕層だが平民であるヒューゴは、貴族の女性など鼻持ちならないと思い込んでいた。それゆえ、はじめは反発しあっていた二人だったが、共に時間を過ごすうち、どうしようもなく惹かれ合ってゆき……。

 

 

私はメアリ・バログの話に出てくるカップルを、ヒーローもしくはヒロインと呼ぶことに、どうにもためらいを感じてしまいます。彼らのことは、物語の中を生きている色々な人々とでも言えばよいのでしょうか?それぞれの人生を精一杯生きているからこそ当たり前のように悩みや苦しみを持ち、ふと出合った人に思いがけなく強く惹かれ合う。そういったお互いがお互いを求めてやまない姿は、この世界のどこかにいる誰かの人生のひとコマを垣間見ているような気がしてしまうほどです。

「ああ、ヒューゴ、二人だけの小さな世界を見つけるために、どれだけ多くの異なる世界を超えていかなくてはならないとしても、わたしはかまわない。平気よ。すべきことをしていくつもりよ。」

どんなに深く惹かれあってもそれだけではどうしようもない生き方のズレや違いをあいまいにしないのが、バログの書く話の特徴といえるでしょう。これは決して他の作家の作品が浅いと言いたいわけではなく、私がバログの話を読む時にはいつも、美しい蓮の花の下にある泥の存在が透けて見えるような気がしてならないのです。