読書備忘録ーロマンチックな回覧板をまわす

これまでに読んだ本の感想をこっそりと書いていく予定 ロマンス小説多めでかなり偏りと多少のネタバレがあります

「素晴らしきソフィー」ジョージェット・ヘイヤー

 この作品はジョージェット・ヘイヤーの代表作とも言われていますが、当然前作の「フレデリカの初恋」同様にラブシーンと呼べるほどの甘い場面はありません。最後から4ページになってやっと主人公たちのカップルが両思いを告白し結婚の申し込みにたどり着いています。そして最後のページの4行で、「荒々しいキス」と「激しい抱擁」を交わして終わりという実にヘイヤーらしい話でした。

この説明では面白くなさそうに思えてしまうかもしれませんが、実のところ本のページをめくる手が止まらないのです!多くの登場人物が入り乱れる話なのですが、全ての人物がきちんと書き分けられているので、話がごちゃごちゃしません。

ヒロイン・ソフィーは「素晴らしき大ソフィー」というあだ名で呼ばれる、物怖じしない行動的かつ実務的で朗らかな女性で、身長は175センチ、絵に描いたような美人ではないけれど、最新流行のファッションを粋に着こなすお洒落さんです。ユーモアセンスたっぷりな彼女の特技は、乗馬と射撃と、それからなんとウソ泣き!策士ソフィーがしれっとした顔で引き起こす騒動が、もう面白いったらないのです。

素晴らしきソフィー (MIRA文庫)

素晴らしきソフィー (MIRA文庫)

 

 あらすじ

19世紀のロンドン。適齢期を迎え伯母の家に預けられたソフィーは、当のリブンホール家が抱える数々の問題にすぐ気づいた。賭事三昧の伯父、詩人に恋する次女、憂い顔の次男も心配だが、実質的な家長である長男チャールズの専制君主ぶりは目に余る。家族中が彼を恐れているうえ、婚約者は究極のうるさ型で、結婚前から何かと口を出す彼女にはチャールズ自身も辟易しているらしい。このままではみんなが不幸になるわ―持ち前の機転で驚くべき救済計画を立て始めたソフィー。そんな彼女を待ち受ける、思いがけない素敵な結末とは?伝説の大作家ヘイヤーの英国摂政期ロマンス。

 

 

普段私はハーレクインをあくまで楽しい娯楽と捉えていますから、どんなに本の内容が面白くても登場人物に肩入れしたりはしません。正直に書くと、作中に出てくる人物はしょせん、作家の頭の中の架空の存在でしかないからでしょうね。でもソフィーに関してだけは、「友達になってみたい」と思いました。それくらいヘイヤーの作り出したヒロインは、聡明でお茶目な、はじけるような魅力を持つ人物として書かれています。

そして今回も前作同様、非常に美人なソフィーのいとこセシリアは、頭の回るタイプの女性として書かれてはいませんでした*1。ヘイヤーという人はもしかしたら女性の美貌というものに、あまり魅力を感じないタイプだったのかもしれません。

 

 

*1:フレデリカの初恋」では美人の妹に関して「信じられないほど美しいけれど、おつむが弱い」と何回も強調して書いてある

「フレデリカの初恋」ジョージェット・ヘイヤー

作者のジョージェット・ヘイヤーは、ロマンス小説愛好家の中でも好みが別れるタイプの作家かもしれません。なぜなら彼女の書く話は、官能シーンどころかラブシーンすらないからです。ヘイヤーは1974年とかなり昔に亡くなっている人なので、作中カップルの愛情表現のマックスは「手を取り合う」「見つめ合う」です。つまりジョージェット・ヘイヤーの作品は現代人の作家が書いたロマンス小説のように、官能的なシーンが全く期待できないと言えます。

実は作家によるラブシーンの書き方の違いを比べるのが私の密かな楽しみでもあるのですが(人によってかなり違っている部分があるのが興味深い)、ジョージェット・ヘイヤーに関してはその楽しみが1ミリも期待できません。でも話が好きなので読みますけどね。

フレデリカの初恋 (MIRA文庫)

フレデリカの初恋 (MIRA文庫)

 

 あらすじ

高貴な血筋と富、そして麗しい顔立ちを生まれ持ったアルヴァストーク侯爵は尊大で皮肉屋なことで知られている。最近も強欲な姉に、冴えない姪を社交界に披露する舞踏会を開くようにせがまれ、断ったところだ。何もかもに退屈していたとき、遠縁の“親戚”を名乗る客が訪れた。その若い女性――質素な身なりだが洗練された立ち居振る舞いのフレデリカは、美貌の妹の社交界デビューに力を貸してほしい、と勇敢にも頼んできた。侯爵は、その信じられないほど美しい妹を見るや助けを申し出た。思い浮かんだ妙案にほくそえみながら。

 

 

ロマンス小説によく出てくる高貴な血筋と富、そして麗しい顔立ちを生まれ持ったヒーローですが、こういうタイプはかなりの確率で尊大で皮肉屋・何もかもに退屈しています。いつも思うのですが、「尊大な貴族=退屈している」というきまりでもあるんでしょうか?

でも彼はそこで美人と一瞬で恋に落ちずに(割と多くのヒーローが、美人もしくはたいへん魅力的なヒロインと一瞬で恋に落ちる)しっかりものの姉の方と心を通わせていきます。ジョージェット・ヘイヤーの本に出てくるカップルは、お互い最初はせいぜい「感じがよい」程度の好意しか抱いていないのですが、最後まで読むと綺麗にまとまります。それから美人の妹に関しては「信じられないほど美しいけれど、おつむが弱い」と何回も強調して書いてあるのが笑えました。

平熱より少々高めかなーくらいの温度から始まった2人の関係がじわじわと盛り上がっていきますが、途中に誤解があってそれがスパイスになり、そのままクライマックスになだれ込むというようなありがちな展開も起こりません。ちょっと不思議な味わいのある作品です。もしかしたらジョージェット・ヘイヤーの書く恋愛は、ハーレクインとして分類するべきではないのかもしれませんね。

ヘイヤーは、1800年以前の時代小説をできる限り正確に書くために、1,000件以上の歴史参考書を所有していたそうです。そうした資料をまとめたノートは、美、色、衣装、帽子、家事、価格、店などに分類付けて整理されていたとのことです。ふと、この本を翻訳した人は、かなりの知識を求められて大変だったろうなぁと感じました。

 

「愛は永遠に」ウェディング・ストーリー2015(「放蕩侯爵と白い真珠」キャロル・モーテイマーその他)

 4 人の作家による短編集です。「放蕩侯爵と白い真珠」キャロル・モーテイマー、「ウェルボーン館の奇跡」ダイアン・ガストン、「シークの愛の奴隷」マーガリート・ケイ、「悩める侯爵」エリザベス・ロールズ

いつも思うのですが、ハーレクインには、「放蕩ナントカ」が多すぎる!ヒーローが放蕩侯爵、放蕩伯爵、放蕩者とやたらに放蕩ばっかりしている印象ですが、実際に読むと割と簡単にヒロインにめろめろになったりするので、ちょっと個人的には納得がいかないケースが多いです。ここに出てくる放蕩伯爵はなんと、10年間ヒロインに一途な気持ちを持っているという設定でした。これでは全く放蕩侯爵でも何でもないため、こういうのを読むとつい「看板(タイトル)に偽りあり」では?と思ってしまいますね。

ウエディング・ストーリー2015 愛は永遠に

ウエディング・ストーリー2015 愛は永遠に

 
内容紹介
①「放蕩伯爵と白い真珠」1年前に亡くなった夫の喪が明け、公爵未亡人のソフィアは社交界に復帰した。自宅で開いた舞踏会に現れたのは、奔放な伯爵として悪名高いダンテ! 
②「ウェルボーン館の奇跡」子爵のジェラルドは重い気分でウェルボーン館にやってきた。不慮の死を遂げた母親の遺言で、館に住む見知らぬ3人きょうだいの後見人を務めるはめになったのだ。
③「シークの愛の奴隷」アラビアで父親の仕事を手伝うフランス人のジュリエット。乗っていた船が嵐で沈み、彼女はラシュアール王国の浜辺に流れ着いた。当地の部族に捕らえられ連行されたのは、光り輝く壮麗な宮殿。彼女は王国のプリンス、カリドへの贈り物にされてしまったのだ!
④「悩める公爵」“国王が決めた花嫁に難色を示す皇太子を説得せよ”法外な命令に、公爵のケスターは自邸の図書室でつぶやいた。「愛に基づかない、便宜上の結婚なんて最悪だ」
 
 
短編集に関しては、これまで読んだことのない作家をお試し感覚で、好みの作家に当たればラッキーという気持ちで読みます。4編とも想像を超えるほどうっとりさせてはもらえませんですが、まぁそれなりと楽しめたというところでしょうか。
ちょっとひとこと。ハーレクインに出てくるシークとは、ざっくり言えば「アラブなどを代表する砂漠の国の高貴な大富豪」だと定義すれば、多分大丈夫。私はシークものに対してあまり食指が動かないので、このジャンルに関してかなりぼんやりとしか理解していない気もしますが、そこはたいした問題ではありません。内容ですが愛の奴隷っていうか、“光り輝く壮麗な宮”という設定はあんまり活かされておらず、ジュリエットとシークがなんか2人で盛り上がってお風呂に入りながらエッチなことをしているという話でした。ハーレクインにはいろいろジャンルがあるので、この辺に関してはシーク好きの愛好家に任せるつもりです。
実は最後の「悩める公爵」が読みたくてこの本を手に取ったのですが、ハーレクインというより新婚の公爵夫妻が痴話げんかをしている話でした。可愛い話なので、深く考えずに良しとしておきます。
 
 
 
 
 

 

「夢見るキスのむこうに」リンゼイ・サンズ

 この作品はリンゼイ・サンズのデビュー作だそうです。そのせいか、文章がちょっと硬いかな?という部分があったりしますが、当然彼女の持ち味であるエロ・ハプニング(私の勝手なネーミング)がいくつか散りばめられています。ちなみに公爵夫人エマと騎士アマリの初めての床入りは、様々な事情を抱えつつ扉一枚で衆人環視のもとに素早く行われていました。

夢見るキスのむこうに (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション(ロマンス・コレクション))

夢見るキスのむこうに (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション(ロマンス・コレクション))

 

 あらすじ

ハートうっとり、世界が恋するとびきりキュートなヒストリカル・ラブ!! 
待望のシリーズ第一作! 
純粋無垢(?)すぎる新妻が、武骨な騎士を夫に迎えたら……

 

 

リンゼイのファンとしては押さえておこうかなという一冊ですが、とってもオススメかというと微妙。正直ヒーローの騎士アマリの魅力がイマイチ伝わりづらいというか、人物造型が浅いかなーと感じました。ヒロイン・エマに関しても、リンゼイがこう書きたい!みたいなヒロイン像が先行しすぎてエピソードの羅列というか、エマという人物が立ち上がってこないかなぁ。読者としては、魅力的な天然ヒロインを書くのってけっこう難しいのね、と思いました。

でもこのシリーズ二作目の「めくるめくキスにおぼれて」は面白かったので、リンゼイの作家としての伸びしろに関しては、かなり感心したかな。

そもそもハーレクインは美男美女がひと目で恋に落ちる的な、「コレはないわー」という展開が話の基本として存在しています。要はベッタベタの恋物語を、作家の腕一つで最後ハッピーエンドにもっていくわけです。一人のハーレクイン愛好家としては、少々のあたりはずれに関して文句を言わずに、暖かく見守る姿勢を取り続けていこうと思っています。

「約束のキスを花嫁に」リンゼイ・サンズ

この話はスコットランド領主の花婿ロスがヒロイン・アナベルに一目ぼれをしたことが話が展開するきっかけになっています。しかし私がこの件に関してはっきりさせておきたいことは、ロスが間違いなくおっぱい星人だということなのです!彼がアナベルの可愛らしさに一発でひきつけられたのは確かですが、同時にアナベルが“めりはりのある体つき”をしていたことを素早く見抜いたことは見過ごせませんね!

約束のキスを花嫁に (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション(ロマンス・コレクション))

約束のキスを花嫁に (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション(ロマンス・コレクション))

 

 あらすじ

修道女見習いのドジっ嬢が突然、姉の代役でスコットランド領主のお嫁さんに――!? 

修道院生活が長く、妻や女主人としての心得を知らないアナベルは不安を抱くも、ロスは 一目で彼女を気に入って結婚することに。共に暮らすうち、心やさしいロスに惹かれるアナベルだったが、不審な影が彼女に近づいて…… 

 

 

あらすじではドジっ嬢という紹介をされていますが、それでまとめるのはざっくりし過ぎな説明なんじゃないかと。実はアナベルは、「ある事情」で何度も殺されかかるのです。だから物語の中盤からは、話がミステリー仕立てになっていきます。ただし前半はロスがアナベルにむらむらしてはちょっかいをかけるという、エロコミックみたいな展開が続きます(何かというとドレスが破れる出来事が起こり、アナベルのおっぱいがドレスから飛び出してしまう)。もちろんそれだけではなく、嫁ぎ先のスコットランドアナベルが領主の妻として奮闘する様子もなかなか面白いですね。この本で「領主の妻の仕事」というものがあるのを、初めて知りました。

領主の妻は城の女主人として采配をふるったり、騎士見習いを教育したりする仕事があるそうです。女主人は、騎士見習いに楽器や読み書きを教えて教育するらしい。責任も重大ですし、けっこう大変そう。

まぁロスはユーモアを解し妻を大事にする人物なので、おっぱい星人といえども納得することにしました。でも修道院生活が長いアナベルが、教会は水曜日と金曜日と日曜日(多い!)に夫婦の営みを禁止していると営みを断ることに対して、水曜日でもベッドでなければ大丈夫とか(でも場所はとか穀物小屋!)水曜日だったけれどもう夜中だから木曜日になったので大丈夫とかいう形でユーモアを発揮するのはいかがなものかと思いました。

「めくるめくキスに溺れて」リンゼイ・サンズ

 この本から学べる貴重な教訓は、「愛はすべて(におい)を越えない」でしょう。リンゼイの書く話には、時々ハイランダー(勇猛な傭兵として広く知られているヨーロッパの戦士の名称)が出てきます。他の作家さんなら戦士と乙女のロマンチックな恋が展開するはず。でもリンゼイなので、恋のスタート地点にすらなかなかたどりつきません。

そう、ダンカンは臭いのです!実は彼は年に2回しかお風呂に入る習慣がないため、全身が汗とあかで汚い・そして臭い。イリアナは政略結婚のお相手のダンカンとの床入りを断固拒否します。エッチはお風呂に入ってからということですね。

 

 

めくるめくキスに溺れて (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション(ロマンス・コレクション))

めくるめくキスに溺れて (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション(ロマンス・コレクション))

 

 あらすじ

愛する夫は屈強なハイランダー。でも彼、ちょっとだけ問題が…!? 
中世スコットランドを舞台に繰り広げられるホットでキュートな傑作登場! 
〈約束の花嫁シリーズ〉第二弾 

 

 

これはイングランドから嫁いできたイリアナとスコットランドハイランダー・ダンカンとの恋物語、というかお風呂をかけての攻防戦です。あらすじの「ちょっとだけ問題が(要はダンカンが臭い)」に関連して、ダンカンが清潔にしてくれるまで床入り拒否するためにイリアナがとった手段が、けっこうエロい!なんと彼女は自分で自分に「貞操帯」をつけてしまいます。エッチがしたいダンカンが貞操帯のカギ欲しさにイリアナを誘惑する場面は手に汗握る、というのはウソで、ダンカンがただのアホにしか見えません。本を読めば分かりますが、どう考えても「早く風呂に入ればいいのに」としか思いませんでした。

しかし安心してください!ダンカンは臭いだけの男ではなく、城主としても優秀です。そしてリンゼイの本に出てくるヒロインに、ただ待っているだけのタイプはいません(そこが好き)。後半の戦闘では、イリアナも知恵を絞って敵を撃退します。イリアナは性格的に「いたずらなキスのあとで」のヒロイン・シュゼットに近いかな。

リンゼイが好んで書く、言いたいことをはっきり言うヒロイン(この場合は臭い・風呂に入れ)とそれに振り回されながらもしぶしぶ言うことを聞くヒーローという組み合わせは、ロマンチック・コメデイとして必見です。

「いたずらなキスのあとで」リンゼイ・サンズ

 「微笑みはいつもそばに」に続く第2弾、妹のシュゼットの恋愛編。タイトルこそ可愛らしいのですが、いくぶんタイトル詐欺な内容とも言えるでしょう。とにかくシュゼットが強烈でアクティブ感に溢れたレディ(!)なのが、読んでいるこっちとしては面白くてしょうがありません。そんなシュゼットが初対面の男性に結婚を申し込むことから物語が回りだします。申し込まれたダニエルはシュゼットに惹かれつつも、あまりのスピード展開におたおたしています(でもキスはするし、その先もする)。

この話から得る学びは「考えるな!感じろ!(byブルース・リー)」といったところでしょうか。

いたずらなキスのあとで (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

いたずらなキスのあとで (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

 

 あらすじ

クールな独身貴族……のはずが、
型破りで初心なおてんば令嬢と出会ったその日に婚約――! ?

あふれるユーモア! とびきりキュートなヒストリカル・ラブ
『微笑みはいつもそばに』に続くマディソン姉妹シリーズ第二弾! 

 

 

この話は一作目の「微笑みはいつもそばに」のいわば裏バージョンで、一作目がクリスティアナ・ラドノー伯爵カップル視点、二作目はシュゼット・ダニエルのカップル視点で、起こったできごとが描かれています。登場人物が入り混じる中、この人はこの時どう動いていたのかがわかるという面白さがありました。

そしてあふれるユーモアは間違っていませんが、この作品に関しては、あふれるラッキースケベと付け加えたくなること請け合いです。個人的にはシュゼットが男性のイチモツを、「春の柱(メイポール)」と呼んでいるのがツボでした。(官能小説でみつけた言い方らしいです)

クリスティアナは長女らしく慎重な面を持っていますが、次女のシュゼットははきはきとモノを言う、情熱的で行動派の女性です。何とか冷静に行動しようとするダニエルと、結果として無邪気かつ熱心に誘ってしまうシュゼットの組み合わせ、これを笑いながら楽しんでいるうちに最後までするりと読めてしまいますね。